失翼の天使―wing lost the angel―
10†〇〇女


「お父さん、晩ご飯で何か食中毒を起こす原因と思われるものありましたか?」



「えーっとですね……。牛丼だったんですが、妻と娘は、生卵を落として食べてました」



「息子さんは食べてない?」



「えぇ……」



金曜日の夜。

復帰した兄と、武藤君との夜勤。

ほとんどのご家庭で晩ご飯を食べ終えたであろう午後8時。

親子3人が救急車で運ばれて来た。

処置をしながら付き添いのご主人への確認を取る。



「お子さんたち大学生ですよね?お昼はバラバラでした?」



「だと思います」



「お母さん。3人だけで、何か食べた?」



「んー……;;あ……浅蜊のお味噌汁……?;;」



「お父さんは食べてないんですか?」



「私は酒の肴としてお肉だけを」



「……浅蜊だね?」



「あぁ」



食中毒の原因と思しき物がわかり、兄に確認して処置を確定。

お役御免のご主人を待合へと出て貰い、兄の指示の下、点滴へ薬を入れて行く。

3人が落ち着くまで観察ベッドで寝かせる事にし、ご主人を付き添わせて、私たちはナースステーションへと戻る。

後期研修医は特にこちらから詳しい指示はなく、それぞれ受け持った家族のカルテを入力。

処方箋もそれぞれの症状に合わせて出す。

入院は今のところ必要はなさそうだ。
< 155 / 219 >

この作品をシェア

pagetop