失翼の天使―wing lost the angel―
2†過去
「俺、ですか……;;」
「頑張って」
翌日からは通常体制に戻り、今夜は研修医2人と鷺沼先生の4人。
診察室の裏扉の前で、私は松枝君の背を叩いて先に入室させる。
撥ねた油で火傷したという中学2年生の女の子だ。
熱傷でも、問診票を見る限りは軽症。
副島君でも良かったけれど、兄のせいか“俺に振らないで下さい”と言うような目で見られた為、あえて振った。
「こんばんは。腕の火傷ですね」
表情を引き締め、診察室には既に女の子は待たせてた為、クールに対応を始めた松枝君。
腕に出来た水脹れは、もう破れて居た。
「皮下組織までの深い火傷ではなさそうなので大丈夫。このパウダースプレータイプの消毒薬に留めて、乾燥を待ちましょう。絆創膏を貼ったりすると、いつまでもジュクジュクして痛みも続くし、治りも悪いですからね」
「はい」
敗れた部分の皮膚を切り、パウダータイプの消毒スプレーを振った松枝君。
説明、処置に問題はなく、ルールの都合でこちらに了承を得る為に視線を向けて来る為、無言でいいねポーズ。
「次は腹痛の患者さんね」
「……はい;;」
女の子が出たところで、次の患者さんの問診票を渡す。
兄に怯えてペースを掴めてないようだけど、なかなかやる子である。