失翼の天使―wing lost the angel―
「師長、優海ちゃんとこアトロピン渡して」



「わかりました」



「武藤君だっけ?」



「はい?」



「こっち安定してっから波形だけ見といて。ぶれたら呼んで」



「えっ?;;あ、はい;;」



突然、指示を出した天真さん。

何をするのかと思えば、手袋を外しながら武藤君にバイタルチェックを任せ、ガウンを羽織って正面に回って来た。

手袋を嵌め替え、生理食塩水を手にするなり、私の手元に掛けた。

1人では追い付かなかない吸引。

でも、お陰で手元がクリアになった。

--プップーッ



「仙田、出て」



「鷺沼総合病院、救命救急センターです」



『21歳男性2人が刺されました――…』



「……何人、刺すつもりだよ……」



「運んで下さい」



受け入れ許可の為に頷きながらも、呆れたような声を出す兄をチラリと見ながら、天真さんの手を借りて何とか縫合を済ませ、傷口を塞ぐ為に針を替える。



「天真先生、ブラディーです!;;」



「あいよ」



武藤君の慌てる声に、さすが兄弟と思う落ち着きを見せる天真さん。

小さく頭を下げると、手袋を外した手で私の頭を撫でながら4歳の男の子のところへと戻って行く。
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