失翼の天使―wing lost the angel―
「はぁ……っ、はぁ……。何の真似ですか……」



「愚かでごめんな?」



急患の居ない待合。

腹部を押さえ、跪く私の前で仁王立ちしてるのは、返り血を浴びたワイシャツを着た翔真先生だ。

姉と話ながらナースステーションを出た瞬間、大きな陰が覆い被さったと思えば、翔真先生。

床に滴れ落ちる血に叫ぶ事務のパートさん。

姉が兄と賴真を呼びに駆け出す。



「まさか君の推理が当たるとはな」



「優海!!」



「……翔兄……?」



「おぉ、賴真!急所は外しといてやったからな?」



「自分が何したかわかって言ってるのか……」



「どうだろうな。わかんねぇわ」



「ぶさ――…」



「ぶさけるなっ!!;;」



「――っ!?;;」



--ガッシャーンッ



何が急所を外した?

こんな最低な事件を起こしておいて、ふざけた態度を取るなんて、医者でもなければ人間でもない。

近くにあったキャスター着きの丸椅子を掴み、投げ付けてた。



「はぁっ……最低……。賴真、縫って……」



「あ、あぁ……」



怒り、呆れ。

無表情で長兄を見つめる賴真に声を掛け、手を借りて立ち上がり、近くの診察室へと入った。
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