失翼の天使―wing lost the angel―
兄の怒鳴り声や、姉が院長や親に電話する声を聞きながら、刺された脇腹を縫って貰う。



「ごめんな……」



「賴真が謝る事じゃないでしょ?気にしないで」



「本当、申し訳ない……」



「ねぇ、私を見てよ……」



縫合を終え、ガーゼが貼られた事を確認して起き上がると頭を下げられた。

私を見ようとしない賴真。

頬に手を当てて顔を上げさせ、額を重ねた。



「もしも私が賴真の立場で、顔を見ようとしなかったらどう?寂しくない?それとも嫌いになる……?」



「ならねぇよ」



「私もならない。だから、ちゃんと私を見てよ……」



「優海」



「ンッ――…」



まだ部分麻酔が効いてるお陰で、背を丸められた。



「良いかしら?入っても」



「入ってるじゃん……;;」



診察室でキスした私もどうかしてたのかも知れない。

というか、どうかしてるんだけど、ニタニタと笑いながら入って来た姉に、額に手を当ててオーバーリアクションを取り、呆れて苦笑い。



「院長たちがみえたの!終わったなら出なさい!」



「ニタニタしといて笑うの止めてくれる?;;」



「してないでしょう!」



最早この人は無自覚なのだろうか。

それとも更年期に突入し、感情のコントロールが上手く出来てないのだろうか。
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