失翼の天使―wing lost the angel―
「受付にみえた患者さんです!」



「了解」


HCUに運ぶ段取りを取ってると、事務の人がパタパタとバックベルトを踏んで履いてるサンダルを鳴らしながら駆け寄って来た。

問診票を見れば、夫婦喧嘩でガラスを被ったという女性だ。

急いで来たのは、まあまあな出血があるのだろう。

ガラスの刺さり具合にもよるけど、安静にしてれば出血もさほどなく、良いと思うんだけど。



「副島君、患者さん」



「おぉ!」



「俺かぁ……;;」



バインダーを見せながら呼ぶと、松枝君の明らかに喜んでる声。

不安げな副島君と診察室へ行き、患者さんを迎え入れる。



「すみませーん!旦那のせいでこんなに足りまして!」



「「あっちゃー……;;」」



思わず漏れてしまった声が、デスクチェアーに座る副島君と被った。

ガラスはガラスでも、ビールか焼酎のガラス瓶で頭を殴られてる。

額の一部がパックリと裂けてる。

出血は興奮や動いた事で増えた事もあり、女性が手にしたタオルが赤く染まってる。



「消毒して縫合をしたいと思うんですが、障害事件ですよね;;」



「そんな!単なる夫婦喧嘩ですから!」



「ご主人は?」



「待合室に居ます」



私はフムフムと頷き、副島君に処置のGOサインを出して、待合に出た。
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