失翼の天使―wing lost the angel―
だが、天真さんが口を開くと脚を止めた。

奥さんである海月さんを失うなんて、嫌だろう。

ようやく賴真や天真さんの気持ちに気付いた様子の天真さんは、膝を着き、頭を抱えて大号泣。

--プップーッ



「鷺沼総合病院、救命救急センター……」



『92歳女性、自宅にて痰が絡んで呼吸困難。出動要請願います』



兄の覇気のない声を聞きながら、スピーカーに耳を傾ける。



「わかりました。出動します。……宮本・主任・友田で行ってくれ」




「「はい」」



「気を付けろよ」



「はい」



出動要請を受けた兄。

宮本先生と仙田さんに行かせるようだ。

運転手兼、機関員を務めるナースステーションのカウンターに座ってた新しい事務の奥村-オクムラ-さんと、ドクターカーの鍵を受け取った友田君を含め4人を見送り、溜め息を吐くと麻酔が切れて来たのか、微かな痛みを感じた。

円テーブルへと行き、カウンターチェアーに腰掛けて背を伸ばす。

--プルルル…ッ



「鷺沼総合病院、救命救急センター長崎です」



外線が鳴り、奥村さんも居ない為、目の前の受話器を取る。



『優海ちゃん?私。麻子-アサコ-だけど。旦那が電話に出なくて……』



「あ……はい。どうも……」



電話の主は、遥真さんの奥さんである麻子さんから。

衣舞さんの容態についてだろうか。
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