失翼の天使―wing lost the angel―
『落ち着いて聞いてね……』



「や……あのっ、」



「「「『…………??』」」」



『……衣舞ちゃん、持たなかった……。天真君に来るように伝えてくれる……?』



--カーン…ッ

…“持たなかった”……?

私は今、何を聞かされてるの……?



「どうした優海」



手のひらから滑り落ちた受話器は、隣のカウンターチェアーに当たり、けたたましい音を響かせた。

傍に居た父親が私の肩に手を掛ける。



「……麻子さんからで……」



「麻子……?衣舞ちゃんの事か!?」



「……天真さんに来てくれって……」



「行くけど、何で……!」



「……っ……」



「優海ちゃん……っ!!」



「……っ、“持たなかった”って……」



「…………。ぅあ゛ぁーーっ!!」



「「天真(君)っ!!;;」」



死を伝える事が、こんなにも苦しいのは初めてだった。

何度も言って来た筈なのに。

衣舞さんの死を知った天真さんは、ふらふらと歩き出したと思えば、泣き叫びながら翔真先生に手を挙げる。

兄と遥真さんが押さえても、脚が出る。

その光景を見てられず、目を背けると、院長が垂れ下がる受話器を手に取った。
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