失翼の天使―wing lost the angel―
フックを押すと、指は110とダイヤルを押した。



「鷺沼総合病院の院長の鷺沼と言います。連続通り魔事件の犯人がわかりました……」



「貴方……っ、」



院長……お父さん自らの通報に、お母さんだけでなく私たちの胸も締め付ける。



「衣舞が何したんだよ――ッ!!」



天真さんの悲痛な叫びに耐えきれず、耳を塞ぐと抱き締められた。

顔を上げればお母さんが、涙を流しながら背を擦ってくれる。

私なんかより、鷺沼家みんなの方が辛いのに。




「……ごめんなさい……」



「良いのよ……。ごめんなさい……。傷付けてしまって、本当にごめんね……っ……」



お母さんの震える腕に抱き締められて数分後、パトカーが到着し、翔真先生は連行された。

病院を守る為、院長は役員を召集し、即日で退職扱いとなり、翔真先生は懲戒解雇。

院長を立てる時ではないと、代理として医師会で派遣医をしてる松田-マツダ-先生に依頼。

大学病院で外科医として働いたのち、開業。

若手育成にも貢献し、医師会では会長補佐も務めた功労者で、私も祖父に連れられて行った会合で何回か会った事があった。

独身で、三度の飯より仕事好き。

生涯医者でありたいと熱く語る真面目な印象。

この状態の病院で院長職を引き受けたと聞いても、驚きはなかった。
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