失翼の天使―wing lost the angel―
「じゃあもう少々お待ち下さいね」



「申し訳ない」



「いいえ。大丈夫です」



立ち上がり、診察室へと戻る。

何かを喋り続ける奥さんを尻目に副島君に回って縫合の具合を確認。



「なかなか器用じゃない。綺麗に縫えたわね」



「ありがとうございます!」



私が褒めると嬉しそうに答え、介助に入ってる仙田さんからガーゼを受け取る副島君。



「奥さん。夫婦喧嘩は犬も喰いません。何事も冷静に。ご主人に優しく」



「……すみません;;」



見送り時に奥さんに声を掛けると、引き攣り笑顔で頭を下げて来た。

旦那さんにエスコートされながら、小さくなって帰って行く背中は実に可愛らしい。

お互い好きだけど……って感じだ。

大人になるにつれ、気持ちを言葉にする事は減る。

隠す術を覚える為、すれ違いが生じてしまうんだろう。

これを機に、あの2人に言葉のやり取りがまた増えれば良いな……。



「優海先生て、長崎先生よりクールで厳しいと思ってましたけど、違うんですね」



「あの人とは全く違う。あれは特別」



口元を緩めながらナースステーションに戻ってると、副島君に声を掛けられた。

私の本来の姿は違う。

ただ、笑えなくなってただけで、兄とは違う。
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