失翼の天使―wing lost the angel―
だからこそ、人を信じる事から始めたい。

心からまた信じられる、恋がしたい。



「お気持ちは大変嬉しいのですが……もう少し、お時間を下さい」



「もちろんだよ」



「……先生……」



「でも、伝えて行くよ?」



「…………?」



「親たちの気持ちなんて関係ない。俺は俺で、優海を想ってる事」



「賴真……!!」



「……ありがとうございます……」



私の気持ちに頷いてくれたのは、目の前に居る院長夫人ではなく、鷺沼先生が先だった。

手を掴まれ、立たされる。

重なり合う手の平から伝わる熱に、ジーンと心が温まって来るのを感じる。



「わかったわ。私もゆっくり待ちましょう!さ、シャワーでも浴びていらっしゃい!お昼ご飯を用意してるから」



「ありがとうございます」



「“お母さん”!」



「ありがとうございます、……お母さん;;」



…何故だろう;;

わかってない院長夫人に苦笑する前に、何か似たような会話をしたような気がする昨夜の出来事が思い返される。

鷺沼先生に訊く勇気はないけど、同じような事を言わせた記憶が断片的にある。

引き攣り笑顔のまま、鷺沼先生に案内されてお風呂場へと行く。

広々とした脱衣所には、フカフカのタオルと昨日の私の洋服が畳まれて置いてあった。
< 62 / 219 >

この作品をシェア

pagetop