失翼の天使―wing lost the angel―
≪1時間位、遅れます。隆寬さんに会いに行って来る≫

兄にそうメールをし、久しぶりの大学病院へと出向く。

ERに顔を出し、持参した菓子折を渡しながら2ヶ月ぶりのスタッフにお礼を言って回った。

そして、退室時間を見越して外科の医局の前で彼を待って声を掛けた。



「ユウ……」



「お久しぶりです」



変わらない姿に安堵とは違う。

でも、どこかホッとしてる自分が居た。

共に日勤だったであろう先生方の視線を感じながらも、私はジュエリーボックスを差し出した。

婚約指輪ってわけじゃないけど、同棲の話をくれた時に貰ったダイヤの指輪。

“結婚も踏まえての付き合いに変えて欲しい”と言いながらくれた物だ。



「それは……。持っててくれて構わない。慰謝料としてでも、名目は何でも良いから」



箱を見るなり受け取りを拒否する彼は、私の勘ながらも未練を持ってくれてるのかも知れない。

それは嬉しい事だけど、私も未練があるからではない。

今度は私が、彼を傷付ける。

おあいこで終われる。

慰謝料なんて、正式に婚約を交わした相手でもなければ、婚姻関係にあったわけでもないんだから、いらない筈だ。

もう、ちゃんと終わらないと。

そして、あざ笑う芹那を今度は私が突き落とすんだ。
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