失翼の天使―wing lost the angel―
「隆寬さん」



「何だ?」



「私、芹那と違って名家の生まれなんです」



「…………?」



「父親は院長より上。A大学病院の医学部長。祖父は医学会の元会長で、義兄は医学会の現歯科部門の代表です」



「…………」



「貴方はそれも知らず、差し出した欲に手を出した。それほど軽い、情のない人だった」



「待ってくれ!俺はちゃんと君を――…」



「誰が信じますか?そして私は、仲間まで苦しめた芹那や院長を許しません。隆寬さんにも2人にも、権力を見せ付けます」



「ユウっ!」



「もう……誰も傷付けないでっ!!」



宣戦布告、とでも言おうか。

素直に言い切った私は、ジュエリーボックスを投げ付けて踵を返した。

追い掛けて来る勇気はないだろう。

例え追い掛けて来ても愚かなだけ。



「……優海ちゃん?」



「久しぶり」



「何してるの?こんな所で」



「さぁ?何でだろうね」



会うつもりがなかった芹那と出会してしまい、冷たく返して表へと出た。

タクシーに乗り、出勤。

何とか兄に伝えた1時間には間に合い、咎めもなく済んだ。



「話せたのか」



「うん。指輪、投げ付けて来た」



「満足したか?」



…それはどうだろう。
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