失翼の天使―wing lost the angel―
「満足かはわからない。でもね、この人と……隆寬さんと結婚しなかった事には良かったと思った。自信家で、大人でさ。昔はそこが素敵に思えてた。好きだったよ?でも、会った時に未練が本当になかったの。寧ろ、仕返ししようと思った。現にお父さんに動いて貰う事にしたけどさ、あの天狗になってる鼻をへし折るって言うのかな。自分の心を表に出せるって良いなって思った」



「時には我慢も必要だ。けど、それは自分を隠す事じゃない。お前はいつもあの男の前で緊張してただろ?立ててやろうって思ってただろ?それはお前に似合う恋じゃなかった。その点、今はどうだ。のびのびしてんじゃねぇか。恋しようとか思わなくても良いから、あいつに感謝しとけよ。お疲れ」



「うん。……お疲れ様」



兄らしくなく。

でも、兄だからこそ私を理解し、見せてくれた優しさに口元が綻ぶ。

マスクに覆われてては兄に見えないだろうけど、話を聞いてた姉も同じような顔で兄の背を見送った。

…本当、不器用な人だ。

でもやっぱり、何だかんだで兄が大好きだと再確認。



「本当、感謝しとくのよ」



「ちゃんとしてる。あの人は、どんな関係になるかはまだわからないけど、大切な人にはなるよ」



誰よりも信頼の置ける先輩医師か。

パートナーかは、答えは見えないけど。





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