失翼の天使―wing lost the angel―
いつか結婚して、出産と……ざっくりとした夢はあるものの、いざこうして赤ちゃんを抱いてみると手が震えてしまう。

甥となる姉の子の湊-ミナト-(16)を初めてこの腕に抱いたのは、3ヶ月頃で首も座った頃。

帝王切開をした時に抱き上げたけど、ナースへと受け継ぐ一瞬の事で、こんなにじっくりと抱いた事などない。



「先生、傷心に浸ってます?」



「んー?どうなんだろうね」



タオルをベッドへと敷いた仙田さんの問いに首を傾げてそこに寝かせ、赤ちゃんの身体を拭って行く。

別に“隆寬さんと……”とかは考えてないけど、ちょっと自分の人生がこれで良いのか迷っては居た。



「おぉ、可愛い」



「手、洗いました?」



「洗ったよ。小さい手だ」



貸し出しの産衣を着せてると、鷺沼先生がやって来た。

私の背中越しからそっと伸ばされた手が、小さな手に指を掴ませた。



「何か、親子みたいですね!」



「ん?そうか?」



「いや、先生は入ってないでしょ!私とこの子が親子に見えるって話ですよ」



「そんな寂しい事を……」



「3人が!親子みたいって話ですよ!」



「「…………」」



…じゃあ、私たちが夫婦……?
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