失翼の天使―wing lost the angel―
ササオカさんの身内は、いわば事実婚の奥さんだけで子供はなし。

その奥さんが年上で83歳とご高齢。

退院までの数ヶ月を癌センターに通う事が難しいと鷺沼院長へ直々に相談しに来たらしい。

この近く住み、院長が開業した頃からのお知り合い。

タクシーでも往復1時間半は、大変だろうと主治医の先生と鷺沼先生が連絡を取り合い、両者も納得して術後1週間となった2日前に転院。

経過も年齢のわりに良好で、みんなも安心してたのに何で?



「ササオカさーん!ちょっと診察しますね」



バイタルを計測する大池主任。



「血液検査して」



聴診しながら指示を出す。



「師長、エコー」



食道がんの術後に合併症を起こす人が居る。

しかも高齢。

最善を尽くして、調べ上げないと。



「……ね、優海……」



「何」



プローブを受け取って腹部に当てた瞬間、看護記録を入力しようとしてた姉が私の腕を引っ張った。

診療妨害かとイラッとしながら、姉が指差すパソコン画面を覗くと、17時過ぎにボルタレンが投与されて居た。

寝たきりによる腰痛に対してのもの。



「ちょっと、待ってよ……!;;」



処方した医師名に“鷺沼賴真”とあるも、その頃は私や兄たちとミーティングをして居た。

しかも、高齢者であり、オペ後……大手術後に出す?
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