失翼の天使―wing lost the angel―
姉の介助のもと、松枝君は挿管をやってのけるものの、まだ勤務して3日目の副島君は威勢良く手を挙げてまで言ったのに、プローブを持つ手が少し震えてるようだ。



「宮本、声掛けといて。骨盤やってるかも知れない」



「CTも連絡しますか?」



「頼んだ」



「大丈夫そうですね」



「そう、なんですか、ね?」



「どうだ?」



鷺沼先生が仙田さんに指示を出す間、私の視線の先では大池主任が副島君よりエコーのモニターを見入って居た。

現場経験は確かに副島君や松枝君。

武藤君や私より上なのは確か。

しかしこの人は、何も学んでなど居ない。



「ネガティブみたいよ」



「――ちょっと退いて」



見かねて大池主任を押し退け、私はプローブを背中側から当てた。



「わかる?」



「あぁ!出血してます!」



モニターを顎でさすと、副島君は腹腔内に血が溜まってるとわかったらしい。



「……すみません」



「別に結構です。信用など最初からないので。仙田さん、開腹セット下さい」



「…………、」



「はい!」



無駄な謝罪。

許すとか許さないの前に、信用がない事をハッキリと伝えた。

拗ねてるし、大人でもない。
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