失翼の天使―wing lost the angel―
この期に及んでも、まだ鷺沼先生。

それだけ好きなんだろうとわかるけど、大池主任はまだササオカさんに向けた謝罪を口にしてない。

会わせてないせいもあるけど、考えるべきは患者さんの事じゃないのか。

同じ医療従事者として、恥ずかしい。

情けない。

でも今は、本当に怒りしかない。



「鷺沼先生の事しか考えられないなら、このまま辞めて下さい」



「どうして貴方がそんな事……!」



「救いたいからですよ。当然ですよね」



「…………」



医者や看護師の指命は、第一に人命救助の筈。

鷺沼先生、ドクターを手助けしたいという気持ちは二の次三の次の事。

いや、人を助けたいって気持ちが一致すれば自然と両者の心が繋がり、最高の連携プレーが生まれる筈だ。

大池主任から離れ、私はテーブルのところへと戻る。



「貴方に私の気持ちなんてわからないわよ……っ゛!」



「――…っ!?」



「優海!!」



「「「『優海先生っ!!』」」」



犬猿……なんて可愛い言葉だろう。

事あれば黙らせて来たけど、始めて反撃の言葉が返された。

反撃にもなっては居ないものの、振り向けば大池主任がハサミを振り翳しながら迫って来て居た。
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