失翼の天使―wing lost the angel―
「このハサミは人を殺める為にあるんじゃないんだ。罪を重ねてはいかん。送るから帰ろう」



「いえ……大丈夫です……。おじ様もおば様も、彼女が好きなんですよね……」



「あぁ。でも、世知子ちゃんを嫌ってるわけじゃないんだよ。さ、帰ろう」



「…………、」



院長に引っ張られるようにナースステーションを出る大池主任。

姉が兄を解放すれば、近くにあったゴミ箱を蹴飛ばした。



「もっ、ユウ君!!」



「病院でそう呼ぶな!!;;」



「すぐ物に当たるの止めてよ!ムカつくなら殴って良いって言ってるでしょ!?」



「殴るわけねぇだろ!」



「そんな度胸ないのよ……」



「そうじゃねぇよ!」



…そうだろうよ;;

アホカップルに呆れながら、鷺沼先生の手を借りて立ち上がる。



「震えてる」



「怖かったですよ、さすがに……」



自分で言うのも何だけど、昔から可愛いだの綺麗など、まあまあ言われて来た。

かと言って、誰に襲われたとか、この顔を嫉まれたとかはなかった。

上の下か中の上かは知らないけど、結局は普通より良い位で……って、こんな経験は当たり前ながら初めて。

悲鳴を上げる可愛さは持ち合わせてないけど、恐怖は感じて当然だ。
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