失翼の天使―wing lost the angel―
エコーを退かしながら、私は鷺沼先生に立ち位置を譲った。

鷺沼先生が開腹し、研修医2人をフォローに入れて、私は呼吸管理へと回った。



「どうなんだ!」



「えっと……」



「はぁ……っ。武藤先生、ここお願い。その人、私がフォローする」



兄の方は順調かと思えば、頭ごなしにキレてる。

立ってるだけで、何が出来るのか。



「おい!勝手な――…」



「煩いな!黙ってて!」



手袋を代えながら男性患者さんの方に行く。

まだ煩い兄。

黙らせ、ユニフォームのポケットから丸めたステートを取り出して聴診。



「お父さーん?ハンドルか何かで、胸を打ったりしました?」



「……はい……っ、」



「エコー下さい。恐らく心タンポナーデですね」



「へぇ」



心雑音を感じ、エコーで見てみる事。

--ポーンッポーンッ…



「ドレーン用意するわ!」



「うん。これ借りるよ」



「……?うん」



「……なかなかやるな」



仁王立ちして褒めて来る兄と、用意に時間が掛かりそうな姉。

私は救急カートからシリンジと18ゲージの針を取り出してセット。

躊躇う事なく針を振り、心膜へと針を刺し進めて行く。
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