失翼の天使―wing lost the angel―
「帰るってもう言わない?」



「あぁ。言わないよ」



「じゃあ早く乗って」



「その前に抱き締めたいって言ったらどうする?」



「外で何を言い出すんですかっ!;;」



この人はどうしてこんなに私の心を乱すのか。

抱き締めるとか、外とか関係なく言われて“はい、お願いします”なんて言えないし。

運転席のドアを開け、乗り込んでエンジンを掛けるなりエアコンを強風にして冷風を浴びる。



「優海」



「……っ、」



「運転、大丈夫か?」



「お陰で目が覚めました;;」



だが、そんなので顔の熱りはおさまらない。

腕を引かれて重なった唇。



「も、もう行きますから、ちゃんとシートベルトして下さい!;;」



「はーい」



後部座席の足元に荷物を置き、鞄からスマホとタンブラーを取り出し、ドリンクホルダーへと置く。

コーヒーショップで帰りに買って来たもの。

温くなっても、車内はコーヒーの香ばしい匂いに包まれた。

車で15分ほどの姉宅へ行き、隣にある義兄の歯医者の職員用駐車場へと車を停める。



「おー!優海おはよう!」



「おはよう、徹-トオル-さん!あ、紹介しとくね?」



湊にラインを送りながら車から降り、日曜日の朝から表の掃き掃除をする義兄に挨拶。
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