失翼の天使―wing lost the angel―
「お、やべー!もうそろそろ出ねぇと」



「今日はよろしくお願いします!」



「こちらこそ」



「じゃあ、優海ちゃん。足りない分は頼んだよ!」



「……夫婦でドケチだね;;」



「小遣い制度がなくなったら返すな!」



歯医者らしくいつまで白い歯……なんて嘘で、白さ加減が最も高いインプラントをピカピカさせながら笑う義兄に、「無理しなくて大丈夫」と告げて車へと戻る。



「あ!まだ祖父ちゃんの車パクっただろ!」



--パシンッ



「ったー!;;」



「人聞き悪い事を言ってないで乗りなさいよ!第一、パクったんじゃない!譲って来たの!」



うちの両親は、普段はどの家庭と変わらない暮らしを送る夫婦。

しかし、一つだけ贅沢なところがあり、それが車だ。

車検まで乗って買い替えるのだ。

そして、その後に勿体ないと私に回して来るのだ。

ちなみに前の車はフェラーリ、アウディと続いたのだけれど、SUV車で遠出のしない私には持て余してた。

だから今回のサイズ感は、ようやく貰って良かったと思ったほど。

町中で走ってるのを見掛けるし、目立つわけでもないから。



「蹴るなよ!」



「はいはい、抱えてます」



高校生になってから、身長が伸びたのか、長い脚を邪魔する私の鞄を蹴ってる湊を叱りながらサングラスを掛ける。
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