ビターキャラメル ビター
雨の降る夜、人の往来が多くある大通りで前のめりに派手に転び、うつぶせのまま起き上がれなかった私の、腰まで捲れ上がり下着丸見えだったスカートを、あらよっとと直してくれたのが、宗吾さんとの出会いだった。
……出来れば忘れていただきたいものだ。
けど、そんなインパクトある初対面、加えてそのあとに私がしでかした失礼もあるから、宗吾さんは、たとえ疎遠になったとしても、あのときのことは覚えているかもしれない。
ほら……今だって、思い出してはぷぷぷと吹き出し笑ってる。
「紫織、今日は転んでパンツ事件は起こさなかったか?」
私はそんな宗吾さんを、大きな鏡越しにじとりと睨みつける。美容室特有のあの椅子にすっぽり小さく収まる私の背後では、宗吾さんが私の髪をひとすくいし、カラーの色づき具合にご満悦だ。
「転んでません。……ていうか、パンツパンツって言わないで。恥ずかしい」
「パンツはパンツだろ」
「せめて下着って言い換えてくださいっ」
「しっ!?」
しまった。これでは言うことに関しては許容してしまったみたいじゃないか。これではこれからもずっと言われ続けることになる。
後悔しながら鏡の中の姿を見れば、何故か宗吾さんは赤面していて。
「え……っと、宗吾さん?」
「……下……着、のほうが、恥ずかしくないか?」
そこ照れるとこなのっ!? パンツパンツ言うそれまでは平気ってなにそれっ!! なのなのそれ反則だ超可愛いっ!!
つられて赤面しながら、私は心の中で絶叫し悶える。
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