再殺動
死ぬには丁度いい日だった。
朝から降り続けている雨は日をまたいでも止む気配をみせない。
重たい灰色の雲は、世の中全てを押し潰すかのように垂れこめている。

夜中の二時も過ぎると車の通りも少なくなり、耳に届く音は地面に突き刺さる雨の音だけ。

『この雨とともに私の全てを流し去ってほしい。消し去ってほしい。消し去って消滅させてほしい』

羽根井若葉(はのいわかば)は真っ暗な部屋の中、冷たいベッドの上に座りながら、カーテンを開け放した窓から打ち付ける雨をぼうっと眺めている。
その手には睡眠薬が握られていた。

彼女はこれから自ら命を絶とうとしているのだ。
クローゼットの中には練炭の準備もある。

家族はもう寝てしまい、家の中で起きているのは彼女一人だ。

机の上には写真が一枚。その横にスマホ。
写真の中には幸せいっぱいの笑顔で映る若葉の姿がある。
隣には彼氏だった菅原忍(すがわらしのぶ)が若葉の肩に腕を回してがっちりと掴んでいる。写真だけ見ると二人はとても幸せそうに見える。

しかし、忍はもういない。
会いたいと願っても二度と会うことができないのだ。
若葉は彼の死を自分のせいだと思い込んでいた。
写真に手を伸ばす。

「ごめんね忍君。私もすぐ行くから、待ってて」

涙が頬をなぞる。写真を胸に大切に抱くと深呼吸をひとつ。
クローゼットの中から練炭を引っ張り出し、床に置いた。
水を一口飲み、呼吸を整える。睡眠薬を手の中で転がし、一粒口に含み、水で流し込んだ。

『ドゥドゥ……』

テーブルが揺れた。
スマホが勝手に再起動をしている。
若葉はちらと見ただけでまた睡眠薬に目を移し、もう一粒、飲み込んだ。
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