お見合い相手はエリート同期
「じゃ帰ろうか。」
「……え?」
さすがにここは声を詰まらせた私の方が普通だと思う。
「何?何か、期待した?」
「もう。そういうのいいから。」
「フッ。」
聞き飽きた笑いと「期待した?」というからかい。
いっそのこと、期待も何もそうなるのが普通でしょ!って言ってやろうかしら。
「戯言が過ぎたかな。ごめん。
明日、休日出勤なんだ。
どうしても終わらせなきゃいけない仕事があって。」
「そっ……か。うん。」
「送るよ。」
言葉少なに電車に揺られた。
帰りたくないなんて言える間柄じゃない。
それともそう思わせて私をからかって遊びたいのが目的なのかな。とさえ勘ぐってしまう。
こんな時ほどすぐにマンション前に着いてしまった気がして、澤口の顔を見られないまま挨拶を交わす。
「おやすみ。」
「おやすみなさい。」
踵を返し、扉の内側へ……。
「朱音?」
呼ばれて振り返るとすぐ近くに歩み寄っていた澤口の腕の中におさまった。
突然の出来事にドギマギして直立不動で固まる。