お見合い相手はエリート同期
「行こう。」
それだけ言った澤口に手を引かれた。
「痛い。澤口、痛いよ。」
強くつかまれた腕は無理矢理引かれて、なんだか怖い。
先ほどの会議室に戻ると扉が閉められて静かに告げられた。
「俺とお試しでも付き合ってるんだろ?」
壁際に追い込まれて逃げ道を断たれ糾弾するように言われる。
「他に目移りするなよ!」
苛立ちをぶつけるように腕を乱暴に壁へ置いた澤口が私へと覆い被さった。
「嫌っ……。」
体を強張らせる私へ触れるだけのキスを落とす。
言葉とは真逆の優しいキスに切なくて胸が苦しくなった。
「俺のこと少しはいいと思ったから見合い相手のままでもいいと思ってたんだろ?」
「それは………。」
「好きでもなんでもないとでも言うのかよ。」
押し黙る私に澤口は深いため息をついた。
「俺は………。」
何かを言い淀んだ澤口が体を離して背を向けた。
「帰れよ。今日はもう顔を見たくない。」
「………ッ。」
荷物をつかんで会議室を飛び出した。
涙が後から後から溢れて頬を伝う。
悔しいのか、悲しいのか、 何か分からない感情が溢れて止まらない。
自分こそ私のこと好きでもなんでもないんでしょ?
そう言ってやりたかった言葉は声にならなかった。