お見合い相手はエリート同期
5.半年
すぐに持ってきてくれたお店の人にお礼を言って思っていたよりも素直に澤口は目の上におしぼりを置いた。
視界が遮られている澤口をこのまま残して帰ってやろうか……。
目を開けた時に誰もいなくて慌てふためく澤口を想像するだけで幸せになれそうだ。
そんな思いも過るのに、おしぼりを置くために少し上を向いた喉がたまに上下するのを見続けた。
無防備な姿の方が色気漂ってるなんて、本当に嫌味な人だ。
「このまま眠ってしまいそうだ。」
おしぼりを外し、グルリと首を回した澤口が目を開いた。
双眼に射抜かれただけで鼓動が速まる気がする。
何よ。嫌いとまで言われたのに。
負け戦、決定なわけ?
「Aperitivo.
食前酒のスパークリングワインでございます。」
ソムリエらしき人が注いでくれる。
桜色の淡いワインの中で気泡が弾けて消える。
「出会いに、乾杯?」
飄々と言ってのけるくせに断言しない澤口に嫌気がさす。
「……そこ疑問形にされたら私はなんて言えばいいわけ?」
睨みつけても暖簾に腕押し、糠に釘。
まともに相手をしていたら馬鹿馬鹿しくてやってられない。
先に口をつける澤口に倣って私もグラスを傾けた。
「わっ。おいしい。」
ワインはいいけど、スパークリングワインはいまいち苦手だったのに。
爽やかな甘みと酸味が少しだけほろ苦い味にマッチしている。