お見合い相手はエリート同期

「……何?」

 気づけば澤口は距離を詰めていて、顔はすぐにでも唇に触れそうな距離にあった。

 手は顎に添えられて持ち上げられる。

「これで想像出来るだろ?」

 息がかかるほどの距離で言われ、再びフッと息を吐かれて澤口は元の席に座った。

 胸は苦しいほど早鐘を打つが、それをこいつなんかに悟られたくない。
 キッと睨み付けても澤口はどこ吹く風。

 分かってる。
 澤口に食ってかかったところで不毛なことくらい。

 スーツの胸ポケット辺りに手を置いた澤口が「失礼」と断りを入れて電話に出た。

 視線が私から逸れて息をつく。

 黙っていれば確かにカッコイイ。

 見合いの席だからなのか、光沢のあるスーツの澤口は嫌味なくそれを着こなしている。

 ソファに座るのには持て余す長い手足。
 切れ長で涼しげな目元にスッと通った鼻すじ。
 薄い唇は色気さえ漂っていて………。

 そうだとしても。
 断じて有り得ない。

 部長も部長よ。
 見合い相手を社内のしかも同期とか、何を考えてるわけ?

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