お見合い相手はエリート同期
「いいわねぇ。
彼女さんも初々しいわ。
うちなんていつもこんな安い所しか連れて行ってくれなくて。」
「馬鹿。そんなこといいだろ。
恥ずかしいこと口にするな。」
岡本課長に窘められて肩を竦める奥様をどんな顔で見ていいのか分からない。
地に足をつけて立っているのかさえも、もう分からなくなっていた。
「あの。出過ぎた真似ですけど、明日予約したホテル。
行けなくなったのでよろしければ代わりに行ってもらえませんか?」
つらつらと淀みなく口にするホテル名と部屋番号。
それは先ほど私が岡本課長から誘われたそれと全く同じもの。
キッと睨むような視線を向けられた私を澤口が庇うように岡本課長と私との間に立った。
「いいの?そんな高級ホテル。」
奥様は嬉しそうとも申し訳なさそうとも取れるような声色で話す。
岡本課長が声を発することはなかった。
ただ、にこやかに澤口が奥様の質問に応対するだけ。
「えぇ。前日のキャンセルはキャンセル料を取られるだけもったいないですから。
俺も代わりに泊まっていただけた方が助かります。」
では。と、会釈をした澤口は私の肩を抱くようにして歩き出した。