お見合い相手はエリート同期
ぼんやりしているうちにルームサービスが届けられた。
テーブルに並べられた料理の数々はどれも美味しそうだ。
急激に空腹を感じて、安心するとお腹って空くものなんだなぁ。と苦笑する。
冷静になってやっと気付く。
自然にここにいるけど、ここはホテルのわけで………。
そう思うとせっかく安心したのに途端に別の緊張をして、隣の澤口を盗み見た。
「風呂、行ってこいよ。
顔がぐちゃぐちゃだぞ。」
そういう発言にデリカシーというか、オブラートに包んで伝えようという気持ちはないんだろうな。
「お見苦しいものをお見せしてすみませんね。
食べ終わったら行くわよ。」
ここはもう覚悟を決めなければいけないよね。
いい大人だ。逃げも隠れもしない。
でも、でもさ。
「俺、高橋のこと嫌いだから。」
そうハッキリと宣言したのと同じ口が私に愛を囁くとでも?
「フッ」と聞き慣れてしまった笑い声に顔を上げると「手、お留守になってる」と指摘された。
「そんなに期待してくれなくても取って食やしないよ。」
「期待なんかしてないわよ!」
精一杯強がってみせても余裕な澤口には何を言ってみたところで無駄な抵抗に思えて仕方ない。
「そ。なら考え事せずに食べろよ。
さすがに俺もさっきの今でそういうことするほど人でなしじゃない。」
悔しいけれど澤口は何もかもお見通しだ。
人の弱みにつけ込みそうなイメージなのに固くなる私に声をかける辺り、澤口は私なんかよりずっと大人だった。