お見合い相手はエリート同期

「分かった。お前にも支払ってもらう。」

 急にかしこまった声を聞いて何事かと顔を上げると壁に腕をついた澤口が覗き込むように体を屈めた。
 近い顔にドキドキする暇もなく唇が軽く触れ合った。

「これで今日の分な。」

 すぐに離された唇は微かに震えてしまうのに、言わずにいられなかった。

「………私とのキスにこのホテル分の価値があるなんて思えな………。」

 全部言い終わる前に再び重ねられた唇は角度を変え、隙間から割り込まれ絡め取られた。
 埋め尽くされて侵食されて立っているのがままならなくなると離された。

「煽るなよ。馬鹿。
 これ以上は離せなくなる。
 昨日の迷惑料込みで釣りは出ないからな。」

 捨てゼリフを吐いた澤口はドアを開けて颯爽と出て行った。
 私はといえば、閉まり行くドアを見つめながらよろよろとその場にへたり込んだ。

「どっちが馬鹿よ。」

 離せなくなるじゃなくて、離さないでって思っちゃったじゃない!馬鹿!

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