お見合い相手はエリート同期
澤口は後輩らしい女の子と親しそうに歩いていた。
私へは向けたことがないような優しい微笑みを向けている。
わざわざ探さなくても正面から歩いてきた間の悪さを呪いながら、澤口達の会話に耳をそばだてている自分に心の中で苦笑する。
「下柳さんは……。おっと失礼。」
すれ違いざまにやっと私達に気付いてぶつかる寸前に身を躱すくらい、その下柳さんに澤口は夢中に見えた。
澤口も可愛い子には鼻の下を伸ばしたりするんだねって嫌味を言いたくなる。
「高橋さん。どうしたの?怖い顔して。
さっきの人にぶつかった?」
「あ、いえ。ちょっと考え事してて。」
筒井さんの心配そうな顔が視界に入って我に返る。
別に澤口が私以外の女性に優しくしていたって。
それは当たり前のことだ。
だって、私のことは嫌いなんだから。
私はそれ以上でもそれ以下でもない。
嫌いで、どうしてか分からないけど見合いの相手で、何か理由があって断らないだけ。
幻想でも抱いていたのかしらと、自分自身を戒めるように頬を軽く叩いて「ぼんやりしててすみません。仕事頑張りましょうね」と、筒井さんへ微笑みかけた。
私だってきっと、澤口より筒井さんへの方が自然に微笑みかけられる。
どうして私達は見合い相手のままでいるんだろう。