お見合い相手はエリート同期
14.知らない
「もうこんな時間。」
終電はとうに過ぎている。
会社から出られるのかさえ怪しい。
「こっち。」
どうやら澤口はこの時間でも慣れているらしく、裏から出られる方法を知っていた。
「寒っ。」
夜になると冬が駆け足でやってきているように感じる。
今年も甘いイベントを過ごすのは無理そうだなぁ。
性格的にも無理なのかなぁ。
「寝起きに冷えると風邪を引くぞ。」
肩を抱かれて、うっわ…と心の中でつぶやいた。
確かに緊張したり色んな意味で体が熱くはなったけど、こんなのなんだか……やめて欲しい。
「大丈夫。昔から体だけは丈夫だから。」
「馬鹿。俺が寒い。」
嘘ばっかり。
くっついている体はどう考えたって澤口の方が暖かい。
「今日こそは送ってく。」
タクシーを拾われて、そう言われたら断れない。
しかも先にタクシーに乗せられて、同乗するのも免れない。
「澤口の家はどこなの?」
「まぁそれは追い追い。」
澤口のことを聞くと躱される気がするのは気のせいなのかな……。