お見合い相手はエリート同期

「また来てね。」

 透さんに優しい微笑みを向けられて店を出た。

 店の外は木枯らしが吹いていて体を縮こませる。
 昨日の反省を踏まえて上着を暖かいものにしてきたけれど、やっぱり風は冷たい。

 冷たい木枯らしに心もやられてしまって、つい、弱い言葉がこぼれ落ちた。

「私、澤口のこと何も知らないなぁ。」

 ポツリとつぶやいた言葉にいつもの「フッ」と息を吐いた笑いを漏らされた。

「これから知ればいいだろ?
 俺の大事な場所とか、大事な奴らとか。
 そういうの知って欲しいから。」

 だから連れてきた。

 そう続きそうな言葉に胸が熱くなる。

「それにそうだな。好きな食べ物も。」

「じゃ牛丼屋も行かなきゃ。」

「フッ。朱音がいいなら。」

「別に私だっていつも高級なお店に行きたいわけじゃないよ。
 それってすごくワガママなお嬢様じゃない。
 もちろん連れて行ってくれた時は嬉しかったけど。」

「ハハッ。お嬢様。お手をどうぞ。」

「もう。わざとらしい。」

 出された手をパチンとはたく。

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