お見合い相手はエリート同期

 けれど手は出されたまま。

「手、繋ごうって意味なんだけど?」

 差し出された手と澤口をマジマジと見比べた。

「それとも手を繋ぐのは嫌?」

「そんなこと……ないけど。」

 ここまでしてくれて、ここまで言ってくれて。
 海外でのことに踏み入るなって態度を少しくらいされたって。

 何が不満だと?

 素直に伸ばせずにいる手を澤口につかまれた。

「時間切れ。
 朱音から繋いでくれたら嬉しかったんだけどな。」

 ずるいよ。
 なんだかすごく大切にされてる錯覚に陥る。
 そうじゃないって知ってるのに。

 それとも今聞けば違う言葉が返ってくるの?

 聞けばいいのに聞けない。

 目の前でまた言われるかもしれない『嫌い』という言葉を平気で聞けるほど強くない。

 最初の頃に軽く聞いておけば良かった。

 澤口はどうして見合いをして、どうして断らないの?

 私のこと嫌いなんじゃないの?

 透さんの『恭一は分かりづらい』『好きな子をいじめちゃうタイプ』という言葉が頭に浮かばないわけじゃない。

 けれど。その言葉を聞いて、自分のことを好きだからなんだ。なんて思えるほど楽観的にはなれなかった。

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