パクチーの王様

 さすがに十時過ぎたところで、兄には帰ってもらっていた。

 そろそろ帰さないと、笑顔の水澄さんに、グーで殴られそうな気がしたからだ。

 聖に、パクチーののっていないケーキを渡し、今度、お義姉さんと翔平になにかお礼をすると言うと、

「俺には……」
と言っていたが。

 いやいや、この年末の忙しいのに、男手を借りてしまったのだから、まず、お義姉さんをねぎらわねば、と思ったのだ。

 それから店内を片付けて、時計を見ると、十二時はとっくの昔に過ぎていた。

「年越してますよっ、逸人さんっ」

「あけましておめでとう」

 そんな淡々と……。

 夫婦初めての年越しですよ……。

 まあ、いいか、と思いながら、二人で、夕食をとった。

 パクチーの入っていない海老のアヒージョもワインも美味しかった。

 先に入っていいと言われたので、逸人さんもお疲れだろうと、と芽以は急いで、お風呂に入る。
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