パクチーの王様
買ったばかりの淡いピンクの可愛らしいコートだ。
圭太とイブに会うから買ったとか。
その日に初めて着ようと思って、一度も手を通さずにとっておいたとか。
そんな記憶は今すぐ抹消したい。
しかし、何故、店?
会社はどうしたんだ、と今は灯りのついていない看板を見上げ、芽以は思う。
最近忙しく、圭太にもあまり会っていなかったので、圭太から逸人の話を聞くこともなかったのだ。
それにしても、なんの店なんだろうな、と芽以は緑の看板を見上げる。
パクチー。
……気のせいだろうか。
店の名前の下に、パクチー専門店と書いてあるような。
私、あれ、嫌いなんだよなーと思いながら、芽以は入り口のマットの上に乗ってみたが、自動ドアは開かなかった。