パクチーの王様

 まー、そうだよねー、と思いながら見送っていると、逸人が、
「なに、人の店、宣伝するみたいに言ってるんだ」
と横から言ってくる。

「いえ、急いで言わなければと思って、焦ったら、あんな感じに」

 はは、と芽以は苦笑いする。

 まだ自分の勤めている店だという実感がないからだろうな、と自分でも思っていた。

 ……いや、それ以前に、結婚したことに実感がないし。

 それを今、誉に言わなかったことが気になっているんだが。

 やばいな。
 あとで、よそから聞こうものなら、何故、あのとき言わなかったとグーで殴ってきそうな奴だからな。

 年賀状は早くに刷って出していたので、結婚のけの字も書いてはいなかった。

 可愛い犬が蝶々を追いかけている、書店で買った市販のイラスト集の絵に、元気ー? とか、またお会いしたいですねーとか例の暗号のような字で書きなぐっているだけのものだ。

 今なら、クマさんがパクチー食べて、げー、なイラストにするんだが……。
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