パクチーの王様
じゃ、裏か、と隣の店との狭い隙間を通り、裏手に回る。
そっと裏口から覗くと、そこに若い修行僧が居た。
厨房で、まな板を前に目を閉じている、その白い整った顔は、まるで仏の前で祈る若い僧侶のようだったが。
その僧侶は僧衣ではなく、白いコックコートを着ていた。
そういや、昔、バーベキューのとき、調理師免許を持ってるとか言ってたっけな。
いや、バーベキューに調理師免許はいらないんだが……。
なんと言ったものかな、と思いながら、芽以は、
「こんばんは」
と声をかけつつ、少し中に入った。
集中を乱されたと怒るかな?
でも、貴様が呼んだんだが……。
失礼。
貴方が呼んだんですが、と思ったとき、ふいに目を開けた逸人が、
「生春巻きにしようと思うんだが」
とまな板の上を見て、言い出した。