パクチーの王様

 いや、クマ年じゃないうえに、それでは客は来ないか、と思ったとき、逸人が何故か下の方を見ているのに気がついた。

「どうかしました?」
と訊いたが、

「……いや」
と言う。

 そういえば、この人、さっき、石段を登っているときから、手をグー、パー、グー、パーしているのだが。

 寒いので手の運動でもしているのだろうか?

 それとも、寒さで手がつっているのだろうか?

 手袋してくればよかったのに、と思ったとき、逸人が福引きの方を見ながら言ってきた。

「ちょっとあの列には並べないな」

 そうですね、と少し残念に思いながら言うと、
「おみくじでも引くか」
と言ってくる。

「そうですね」
と芽以は笑った。

 なにか引かねば、おさまらない感じがしていたからだ。
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