パクチーの王様
開店時間になり、店を開けると、逸人は手早く料理を仕上げてくる。
ほんとすごいな、この人。
……なんでこんな人が私と結婚してるんだろうな、と芽以は改めて思った。
完璧な人生に、なにがしかの障害を設けてみたかったのだろうか。
他に幾らでも、立派なお嫁さんが来たろうに。
それか、お家のために、圭太の結婚の障害にならないよう、私を引き取ってくれたとか?
ああ、それにしても、今日もどの料理も美味しそうだ、と逸人が開けている真牡蠣をチラと観る。
あの繊細な白い指が、オイスターナイフで、小器用に、くるくると牡蠣の殻を開けては置いていく。
殻に隙間が見えた段階で、ぷるぷるの新鮮な牡蠣の身が既に見えている。
食べなくとも、その乳白色の色を見ていると、しっとりとしてクリーミーな味わいと舌触りが感じられるようだ。