パクチーの王様
昼過ぎ、客が途切れたので、逸人は少し休憩していた。
芽以は二階で、慌てて脱いだままだった着物を畳んでいるようだ。
あとで実家に持って帰って干すらしい。
此処には衣桁《いこう》も着物用のハンガーもないからだ。
時計を見、お茶でも淹れるか、と逸人が立ち上がりかけたとき、電話が鳴った。
芽以より先に下で取る。
『あ、俺、俺』
ガチャンと電話を切った。
だが、またすぐに鳴り出す。
今度は、芽以が取らないように、音が鳴るか鳴らないかのうちに取った。
『俺、俺、俺だってばっ』
「オレオレ詐欺なら間に合っている」
そう言い、切ろうとした。