パクチーの王様
そこで芽以が少し顔をしかめた。
「……下に下りてくると、パクチーの匂いがしますね」
「パクチー専門店だからな」
少し息を止めている風な芽以を見ながら、逸人は思っていた。
――俺がパクチーを克服しようと思ったのには訳がある。
だが、それをこいつに言うつもりは、まだない。
……そして、今、圭太から電話がかかってきたことを話すつもりも、さらさらない。
逸人は、顔をしかめながらも側に来てくれる芽以を見、ほんの少しだけ笑ってみせた。