パクチーの王様
森でクマに出くわすように、角を曲がったら、圭太に出くわすかもしれん。
此処は芽以の実家の近くだ。
ということは、自分の実家の近くでもあるということだ。
なんせ、公立の小中学校で同じ校区だったのだから。
まあいい。
いずれ、店舗は山奥に構えるつもりだし、と思って、気を落ち着ける。
圭太のデカい外車が入って来られないような、細い道の山奥になっ、と思う。
本来、秘境に店を構えようと思っていたのは、別の理由からだったのだが。
今では圭太除けに、店舗を山奥に持っていきたい、と真剣に思っている。
「芽以、此処はもう上がって、風呂に入れ。
冷めるから」
「はいっ、お先に失礼しますっ、教官っ」
……お前、ついに口に出して言ったな、と思いながら、そのことにも気づかぬように、緊張したまま、店から立ち去る芽以の後ろ姿を見送った。