パクチーの王様



 年も明けたし、そろそろ夫婦らしいことをしてみても、いいんじゃないか?
と言おうかと思っていた。

 逸人はひとり、自分の部屋で寝転がり、さっきの出来事を思い出していた。

 でも、実際、芽以を目の前にすると、なにも言えなかった。

『ええっ!?』
とか言って拒絶されても嫌だし。

 もふもふのあったかそうなパジャマをこの寒いのに脱がすのも可哀想だし、とか思ってしまって。

 結局、あけましておめでとう、とだけ言って、去ってしまったのだが。

 ……なんでもわりと、スマートにやりこなせる方だと思っていたんだが。

 どうも芽以が相手だと上手くいかない。

 昔からだ、と思いながら、逸人は目を閉じる。

 アラブでは、パクチーは千夜一夜物語に出て来る媚薬として有名だ。

 時間が来たからというより、なんとなく、芽以の前で言うのをためらって、その話をせずに黙ってしまった。

 そんなことを思い出していたのだが、やがて、疲れからか、うとうとし始める。
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