パクチーの王様
「あら、芽以。
 似合うじゃないの、それ」
と制服を見て言った。

「お、お久しぶりです、砂羽《さわ》さん」

 逸人と圭太の姉、砂羽だ。

 年が離れているので、もう結構いい年ではないかと思うのだが、相変わらず、若く見えるし、綺麗だ。

「もうすぐ休憩よね?
 じゃあ、それまで静かに、なにかいただいとくわ」

 いや……既に静かじゃないですが、と芽以の顔にも逸人の顔にも、お客さんたちの顔にも書いてあった。

 店内が一体となった瞬間だった。

 窓側の席に座った砂羽は、メニューを見ながら、
「じゃあ、このランチAで。
 あ、パクチー抜きね」
と言う。

 ふたたび、芽以と店内が一体となった。

 いや……だから、貴女、此処に、なにしに来ましたか、と思ったのだ。
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