パクチーの王様



「あれ、美味しかったですっ。
 なんかこう、パイナップルが入って、甘酸っぱい」
と後半、酔っていたので、うろ覚えな店のメニューを褒めながら、歩いているうちに、逸人の店が通りの先の方に見えてきた。

「此処、いい場所ですよねー。
 あんないい店から歩いて帰れますよ」
と笑うと、逸人は、

「うちも、あんないい店とか言われるようになるといいんだが」
と言ってくる。

「なりますよ。
 だって、逸人さんがやってるんですから」
と笑うと、逸人は俯き、

「……なんの根拠にもなってないが」
と言いながらも、少し笑っていた。

 今は暗く、灯りもついていないので、よく見えない店舗の方を見ながら、芽以は訊いた。

「あのー、なんで、パクチー専門店を開こうと思ったんですか?」

 苦手なものを克服したいからと言うのは聞いたが、それだけなのだろうかと少し気になっていたからだ。
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