パクチーの王様
「言ったろう。
 トレンチコートの肩の飾りは、倒れた仲間を引っ張り起こすためにあるんだ」

 素っ気なくそう言い、逸人は先を歩き出す。

 仲間か……、と芽以は逸人の小さな頭を見上げ、微笑んだ。

「逸人さん、私のことも仲間だと思ってくださってますか?」
と呼びかけると、逸人は、珍しく、

「……は?」
と少し間抜けな声を上げ、振り返る。

「私のことも、一緒に店をやる仲間だと思ってくださったら、嬉しいですっ」
と芽以は、立ち止まった逸人の白く大きな手を両手で握る。

「私っ、ずっと受付嬢しかやってこなくて。
 受け付けることと、愛想を振ることしか出来ませんがっ。

 これからも頑張りますのでっ、見捨てないでくださいっ」
と言うと、逸人は、

「いや、他の男に愛想は振らなくていいが……」
と言ったあとで、

「……お前はよくやってると思うよ。
 前の会社の仕事もよくやってた」
と言ってきた。

 やってた?
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