パクチーの王様
「俺はお前の会社に行くことはなかったが、たまに会社の前を通ってたんだ。
嫌な客も居るだろうに、お前は、いつも笑顔でニコニコ応対してた」
「み、見てくださってたんですかっ」
と逸人の手を握る手に力を込めると、
「たまたま視界に入っただけだ。
それから、手を離せ。
不用意に男に愛想を振ったり、手を握ったりするな」
と素っ気なく言ってくる。
……いや、貴方、私の夫ですよね、と思いはしたが、その辺の男友だちより、確かに、よそよそしい感じはしていた。
まあ、押し付けられた嫁だからな、と思う。
店の前まで歩き、鍵を出す逸人の背を見ながら、芽以は思っていた。
でも、私、逸人さんと働くの、楽しいですよ。
厨房に行ったときと、料理を運ぶときは、ちょっと息を止めてますが。
だんだん、息を止められる時間が長くなってきた気がするし。
いつか、きっと、素潜りしたとき、役に立つに違いありません。
パクチーだって、そのうち、劇的に好きになれると信じてますしね。
嫌な客も居るだろうに、お前は、いつも笑顔でニコニコ応対してた」
「み、見てくださってたんですかっ」
と逸人の手を握る手に力を込めると、
「たまたま視界に入っただけだ。
それから、手を離せ。
不用意に男に愛想を振ったり、手を握ったりするな」
と素っ気なく言ってくる。
……いや、貴方、私の夫ですよね、と思いはしたが、その辺の男友だちより、確かに、よそよそしい感じはしていた。
まあ、押し付けられた嫁だからな、と思う。
店の前まで歩き、鍵を出す逸人の背を見ながら、芽以は思っていた。
でも、私、逸人さんと働くの、楽しいですよ。
厨房に行ったときと、料理を運ぶときは、ちょっと息を止めてますが。
だんだん、息を止められる時間が長くなってきた気がするし。
いつか、きっと、素潜りしたとき、役に立つに違いありません。
パクチーだって、そのうち、劇的に好きになれると信じてますしね。