パクチーの王様
寝られそうで、寝られないな、と思いながら、身じろぎもせず、じっとしていると、逸人が口を開いた。
「お前、さっき、なんでパクチー専門店を開いたのかと訊いたな」
あ、は、はい、と言いながら、逸人の方を向く。
逸人は目を開け、天井を見ていた。
「昔、パクチーを我慢して食べたら、いいことがあったと言ったろう。
親がみんなの前で、お前風に言うなら、げー、するなというから、こらえて呑み込んだんだ。
いつまでも、鼻から突き抜けるようにパクチーの匂いが残ったが。
ぐっと堪えて、他の招待客の手前、笑顔で食べた。
そしたら、次の日、……ちょうど圭太が居なかったんだ」
話はそこで終わりのようだった。
圭太が居ないことのなにがよかったんだろうな、と芽以は思う。
ケーキを切るときに、圭太が居なかったから、割り当てが増えたとか?
……いや、我が家じゃないんだ、そんなせこい話ではあるまい、とか考えていると、逸人は、
「芽以、手を出せ」
と言ってきた。